ただ漫然と生きていた。
だから、近くの高校に入った。 近かったから。そして中卒というのは厳しすぎると思ったから。それだけ。 面接の時にはもっともらしい理由を述べたけど、でっちあげ100%だった。 その高校は、もうなんというか、どうしようもなかった。 昔から「廊下を自転車が走ってる」なんて事を聞いていたし、 苛めの噂なんて噂にならないほど日常的。 短ランにリーゼントってイメージがよく似合うところだった。 「魁!男塾」が近いイメージだ。 1年。2年。3年。 そういったのほほんとしたイメージではなく、 1号生(奴隷レベル)。2号生(鬼レベル)。3号生(神レベル)。 厳然としたクラス分けがなされていた。 ちなみに、男塾みたいに戦いによって下克上がなされるなんていうことはなく、 奴隷→鬼、鬼→神にクラスチェンジするには1年我慢するしかない。 平成の世の中でこれである。 当時の日本全国を見渡しても、これだけの環境を擁する学校なんてそうありはしないだろう。 これら環境については、和魂要塞の「死線」というカテゴリで詳細に語られているし、 「勝手にリンク」から飛べる「無法半島」にも何度となく出てくる話題である。 両者にこれほど書かせるまでに、インパクトのある高校だった。 これじゃやばい、どうしようもない。変わるしかない。教師達はそう思ってたんだろう。 筆者の代から、制服がブレザーに変わった。 入学試験も、「誰でも入れるレベル」からかなり厳しくなった。 イメージチェンジってやつだ。 筆者の代は、間違いなくその先兵、生贄とされた。 単純に学力だけで考えた場合、レベルが低いのを入れなければ相対的にレベルは高くなるのは必然。 それは厳しくなった入学試験において考査すればいい。 じゃあ、そのレベルの低いのはどこに行けばいいかというと、 今回、それはまったく考慮されてなかったわけで。 街中にあぶれるしかないんである。 そうしてそれらは、校内ではなく、町内において触れるとまずい地雷。 --いや、埋まってないから誘導兵器といったほうが正しいか-- と化していった。 201V1は小学校高学年のころに筆者の住む田舎に来た、いわゆる転校生であった。 そのころから目立ちすぎるほど目立っていた。 出る杭は打たれる。 高校に入ってまもなくして、不良たちは目立つ201V1をこれでもかといわんばかりに攻撃した。 201V1はそれに屈しなかったため、攻撃は苛烈を極めた。 201V1と遊んでいた筆者のところにも、電話がきた。 「もしもし?」 「201V1の電話番号を教えろ」 「すいません・・・失礼ですがお名前を頂戴できますか?」 「誰だっていいだろう。とにかく教えろ」 「誰だっていい奴に電話番号を教えることは・・・できませんね」 ガチャッ。 筆者から電話を切った。 さすがに友人を売ることはできなかった。 それなら本気で死んだほうがマシだと思った。 これで筆者の高校における立場が確定した。 彼らの、敵である。 風当たりがきつくなってきてるのはわかっていた。 校内でも平気でタックルとか食らうし、胸元掴まれて脅されるとかもされた。 しかし、タックル食らってもすこしふっ飛ばされるだけだし、 脅されたところでその脅しはなぜか全くといっていいほど怖くなかった。 友達を売らなかった報いがこれなら安いもんだと思っていた。 一人の友達をつまらん事で失うよりよっぽどいい。 ある日、同級生とかとカラオケに行った。 帰り際、待ち伏せされていたかのように不良たちに囲まれ、襲撃された。 どうやら目標は筆者一人で、あとの同級生はというと後ろから黙ってみてるだけだった。 なるほどね。 筆者は201V1のように柔道とかをやってたわけではなく、普通に鈍くさい人間だった。 だけど、状況判断だけは人一倍だと思っていた。 囲まれたら通常逃げるのは不可能。なら今はやられるしかない、か。 後ろから足払いが来るのがわかった。 そしてそんなのでは転ばない威力だっていうのもわかった。 明らかに筆者を軽く見てるに違いない。 この足払いでわざと転ぶ。 先に転んでおいたほうが、あとでいいのを貰って変に頭とか打つよりマシだと思ったからだ。 不良たちは筆者を転ばせて多数で詰め寄り、大振りの蹴りとか打ち下ろしとかで筆者を攻撃する。 ただ、どれもが大振りなので、事前対処=防御、急所を避けるというのは意外と簡単だった。 中学の柔道の授業で、受身の練習やら201V1に投げられたりとかした経験が生きたのかもしれない。 「こいつ蹴ってみろよ!気持ちいいぜ!!」 そりゃあそうだろう。ある程度音が鳴るように蹴りを受け止めて、大袈裟にうめき声出してるんだから。 さすがに複数できたため、腕と背中にいいのを一発ずつ貰ったが、 むしろ本当にやられてることも見せなければこの攻撃は終わらない。 演技力が問われる場面である。 不良たちが引き上げていったあと、スッと立って同級生を見た。 やっぱりいいのを貰うと痛いが、歩けないとかそういうことはない。 まぁ、痣になるとかその辺だろう。 「ご、ごめん。止められなくてさ。大丈夫か?」 わかってるって。お前たちも後がなかったんだろう? ただ、そういう人たちってことね。 心の中で納得した後、珍念の家に少し立ち寄ってから家に戻った。 家に戻ったら筆者の母親に問い詰められた。 何をされたのかと。 最初は「関係ない」と言い張っていたが、結局すべてを言った。 学校の内外で狙われてるっぽいこと。 今日、囲まれて見てのとおりの状態になったこと。 学校では見てみぬふりっぽいこと。 それを聞いて、母親は地元の警察に駆け込んだ。 しかし、まるで取り合ってもらえなかった。 聞いた話だと、地元ぐるみで有耶無耶する気配満点だったらしい。 その当時、筆者の母親は伊豆でも結構有名な旅館でサービス室長をやっていた。 旅館が有名なだけに、いろいろな関係の人が来る。 そして、筆者の母親は結構そういう人たちと懇意にしていた。 (実家に行くと今でもそういう年賀状とかが来てたりする) 当時においても、○○組系とかではなく、○○組そのものの幹部ご一行の名刺を貰ってたり、 かと思えば筆者が住んでいた県の県警のトップの名刺を貰ってたり。 筆者の母親は、今回警察に取り合ってもらえなかったことで、その人脈をどうやらフルに活用したらしい。 筆者の母親がどこかの居酒屋に飲みに行ったとき、 そのまるで取り合ってもらえなかった警察官が店内にいるのを視認した。 その警察官は、酒を大いに飲んだ後、車で帰った。 ナンバーを控え、その場で地元の警察署に電話した。 「警察官は飲酒運転していいのか」 どうやら有耶無耶にしそうな気配だったらしい。 「ならいい。いまから県警のトップに来てもらう」 「こないだ取り合ってもらえなかったことも洗いざらいしゃべる」 そして母親は本当に県警にしゃべり、飲酒運転した警察官は即刻首になった。 どうやら組織ってのは上から言われると機械的に作業が早くなるものらしい。 さらに、これを境に筆者に対する攻撃がパタリとやんだ。 裏で何があったかは、想像には難くないが知る由はない。 201V1も、苛烈な攻撃に負けてはいなかった。 高校で起こったことを刑事事件にし、学校のすべての状況を教育機関に曝け出し、 現存の教師たちを揃って首にする(これは後に聞いた話)という離れ業をやってのけた。 筆者が意地を通したかどうかはともかく、201V1はどうやら意地を通したようだ。 このころ、201V1から何回か電話が来たことがある。 「大丈夫かZil。お前まで巻き込んじゃってごめんな」 みたいなことを毎回言っていた。 あいつはものすごく申し訳なく思ってたんだろう。 結構何でも自分で背負い込んじゃうタイプの人間だし。 ただ、筆者は201V1の騒動に巻き込まれたわけではなく、全く別個の問題だと思っていた。 今でもそう思っている。 中学のころは、この田舎でずっと生きていっても全然OKだと考えていた。 なので、1年のころは進学クラスには入っていなかったのだが、 高校のころにこういうことがあって、絶対ここから離れてやる、と考えるようになった。 ただ、この土地から離れる方法として高校生の筆者にできることは勉強しかなかった。 勉強して、上の学校に行って、それでもってこの土地から離れる。 1年のとき、在籍していたクラスで半端ではない成績を叩き出し、2年になって進学クラスに入った。 (冗談ではなく、1年のころはクラスのほかの人が各教科で最高点を寄り集めても、筆者一人にはかなわないくらい) そして、卒業と同時に横浜に行った。 横浜に来て、あの土地があまりに閉塞した環境にある、と改めて感じた。 すべてが違いすぎた。 こっちに来てからは、あまり田舎には戻っていない。 本格的に戻ろうなんてこれっぽっちも思わない。 そんな感じで、あれからもう10年が過ぎようとしている。 しかし、いつか、あの過去と正面から向き合うために、 一回はじっくりとあの土地に行かなければならないんだろうな。 きっと。
by zilzal999
| 2004-08-23 13:24
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